2020年12月15日

個別の配慮が必要な子どもと特別支援教育<くやま小児科だよりNo244/2020/12>

小児科では様々なご相談ごとがありますが、発達に関するお困りも多く寄せられます。また、印西市の市医として就学指導委員も担当していますので、その立場からもいろいろと考えることがあります。
今回はいくつかのケースを取り上げながらお話してみましょう。
個人情報保護のため、内容は少し改変しています。


<じっとできない6歳の男の子>

じっと座ったり指示を聞くことができないという保育園通園中の男の子が来院されました。
保育園では食事中や遊戯・工作中も席を離れて集中できず、小学校入学前に医療機関受診を勧められました。
注意欠如多動症の可能性を考えて、専門医療機関の受診をお勧めしました。


<幼稚園ではお話できない4歳の女の子>

幼稚園入園以来、園内では一言も発言しないことを母親が心配して、女の子が受診されました。
家庭では家族たちと普通にお話しているとのことです。
選択性(場面)緘黙(かんもく)症と判断して専門医療機関を紹介しました。


<お友達とのトラブル>

7歳の男の子が、学校で友達とのトラブルが絶えない、とのことで来院されました。
勉強はよくできますが、会話に割り込んだり、負けず嫌いで喧嘩になることもしばしばとのことでした。
食べ物の好き嫌いが強いこと、自分の考えを変えないこと、自動車の名前やゲームに熱中すること、という性質があるとのことでした。
自閉傾向を疑い専門医療機関を紹介しました。


<個別の配慮が必要な子ども>

お子さんたちは本当に様々な個性があることを、日々の診療で実感しています。
私自身も子どもの頃は、車や岩石や星の名前に熱中したり、友達と一緒にいるより読書と空想が好きで、医師になった今から思うと、ちょっと難しい子だったと思います。

個性の際立ち方によっては、現在の保育園・幼稚園や学校教育の枠に合いにくいお子さんがおられます。
社会への適正というものは時代や場所によって変わってゆきます。お子さんの個性が現在の環境にうまくマッチしていないからといって、良し悪しの価値判断を単純に当てはめるのは適切とは言えません。
小児科医としてお子さんの成長を見ていると、むしろ短所と見えたものが将来の長所に替わってゆくことがあることを実感します。

以前は、集団教育の枠に入らないで結果として進路から遅れるお子さんを、「障害」と位置付けていました。
現在は教育と医療では障害という序列をつける考え方はやめて、「個別の配慮(支援)が必要な子ども」と捉えるようになりました。
理由は、障害はお子さんと保護者を傷つけるレッテルとなることがあること、障害よりも個別性と捉えた方がお子さんの多様なニードにより的確に対応できること、その結果よりよい教育と社会生活の成果が得られることがわかってきたということです。
当院でも、小児科医療という立場から、お子さんの適正に合わせた集団生活や学習のスキルを得ていただくために、発達や集団生活の相談をお受けしています。


<特別支援教育とは?>

特別支援教育とは、お子さんの多様な個別性に合わせた教育システムのことですが、普通学校に併設される特別支援学級(知的、情緒)、特別支援学校(この地域では印旛、我孫子、松戸など)があります。
他にも不登校児童などのための適応指導教室などがあります。

個別性とは本来は障害や遅れではないはずですが、現在の支援教育はまだ障害の枠組に止まっていて、発展途上にあります。
現場の教師がこの制度がまだ不十分なことを一番よくわかっておられます。
しかし最近では、多様な個別性や障害のあるお子さんも通常のお子さんと同じ社会の一員であって、一緒に教育を受けるのが本来の姿であるとの考えが取り入れられるようになりました。これをインクルーシブ教育(ノーマライゼーション)といいます。
この考えで、現在は個別支援教育でも、通常学級のお子さんと一緒の学習機会を持つ機会(交流学級)を出来るだけ持つ制度になっています。


<特別支援教育の目的>

1)個別性に合わせて社会生活のスキルと教育を学ぶ
2)社会生活への自信をつける。将来の不適応を予防する
3)「頼る力」をつける

1)は上に述べたことです。

2)は集団生活や社会生活に、明るい前向きな気持ちを持ってもらうことです。
特別支援教育が適切と思われるお子さんの中で普通学級に在籍した結果、学業や友人や教師との関係の問題を抱えてしまったり、不登校になってしまうお子さんはめずらしくありません。
個別性はときに集団から浮き上がる結果となって、学校生活の適応が困難となることがあります。
子ども時代に抱いた社会への否定的感情は将来の進路に大きな影響をおよぼします。
社会生活と学業に不可欠な「今を幸せに生きること」のために特別支援教育を選ぶことがあるのは、大切な目的です。

3)人間が生きてゆく上で「自助」と「共助」の他に「頼る力=助けられる力」は不可欠です。私自身の経験では、自分1人で成し遂げたことよりも人にしてもらったことの方がすっと多いことに気づきます。おそらくほとんどの人もそうではないでしょうか?上手に助けられる力をつけることは、経験しないとできません。
特別支援教育の目的の1つに「頼る力」をつける役割があります。


<でも特別支援教育への抵抗がありませんか?>

私は印西市の就学指導委員を務めさせていただいています。
秋には新年度に向けて、お子さんの個別性に配慮した学級編成の会議を行います。
最近は自ら特別支援教育を希望される保護者が多くなりましたが、中には普通学級を希望される方がおられます。
理由は次のようなことになるようです。

1)我が子は障害者ではない、「障害」というレッテルを貼られたくない
2)同じ地域社会の一員として普通教育のお子さんと一緒が良い
3)特別支援教育に入ると普通学級に復帰できなくなる
4)特別支援教育に入ると将来の就職にマイナスになる
5)普通教育で学ばせた方が教育効果がある
6)我が子のIQは正常なので特別支援教育の対象ではない
7)現在の特別支援教育には不満がある
8)今の日本の教育(普通学級と特別支援教育のどちらも)は我が子には適さない

これらのすべてに満足のいく答えはありませんが、3)、4)、5)については特別支援教育が普通教育より優ることが多いと言えます。
個別支援のほうがより少人数でお子さんの理解・到達度に合わせた教育が出来るので、普通学級より教育効果は高くなります。
到達水準が十分になったら、その時点で普通学級に編入になりますので、結果的に追いつくのはより早くなります。
現在は、教育委員会は原則普通学級を勧める方針ですので、理由なく支援学級に留まることはありません。もしも学力が通常水準に達しなかった場合に特別支援高校に通学する場合がありますが、その場合は学校が企業と強力な連携がありますので、大企業などの障害者枠での就職は一般高校よりかえって有利になります。
6)のIQが正常(それ以上も)の場合は、集団生活への適応困難は学力以上に重大なことがありますので、個別の方がより適していると判断した結果です。交流学級も取り入れて徐々に普通学級を目指します。
7)と8)のようなケースでは次のフリースクールと関連します。


<フリースクール>

発達のことで当院を受診されるお子さんの中に、最近フリースクールに通われる方がいらっしゃるようになりました。
現行の日本の集団教育になじまないとおっしゃられるお子さんや不登校のお子さんの中には、フリースクールを選ばれる方がいらっしゃいます。
印西市でも複数のフリースクールが活動されています。印西市議会の中にも、フリースクールの支援者が複数おられます。
今後多様な教育ニードにお応えするために、このような活動が広がることを願っています。

posted by kuyama at 13:30| くやま小児科だより・ブログ版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする